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全体最適とプロセスオーナー制度

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全体最適とプロセスオーナー制度

全体最適とは

全体最適とはどのような状態のことを指すのでしょう。どんな企業でも、製品やサービスをお客様に届け、その対価を得ることでビジネスを成り立たせています。この製品やサービスを準備してお客様の元へ届け、お金をいただくまでの一連の業務、これを「End to End プロセス」と呼ぶことにします(お客様を起点とする頭からお尻までのプロセスです)。

「End to End プロセス」にはいろいろな組織が関わり合い、バトンを受け渡しながら業務が進んでゆきます。お客様に最高の付加価値を届けようとする心意気はみな同じだと思いますが、時にこれらの組織間では利害がぶつかります。例えば製造業を例にとってみると、企画部門はできるだけイノベーティブな製品を世に送り出そうとするため、時に自社の技術の限界スレスレの企画を打ち出します。この企画に対し、設計部門は実現可能性・採算性・安全性・環境問題等の観点、製造部門は生産性と原価低減の観点、営業部門は売上見通しやお客様への納期の観点から意見を戦わせる必要が出てきます。

コモディティ化した商品を製造、販売する企業では、在庫の問題も発生します。事業部門は在庫が余って損をすることを避けたい一方で、営業部門は品切れを嫌って在庫をたくさん持っておきたい、といったような対立です。また、経理や調達といった事業を横断してある特定のサービスを提供する部署から見ると、事業部A、B、C・・・がみなそれぞれ別々の要求をしてくることにより、共通化をしたくてもできない、といったジレンマもあります。

全体最適とは、このような社内の組織間の対立を全体の視点で天秤にかけ、お客様にとって何が最善か?と考えながら調整した結果の事を指します。声の大きい組織の意見が優先されるような状態は全体最適とは言えません。

 

個別最適の弊害

全体最適の対極にある状態が個別最適と呼ばれています。全体最適を考える人がいない状態と言い換えても良いでしょう。そうすると人々はとにかく自分の組織のミッションのためだけに働き始めます。自分達の論理を外に押し付けようとしてしまう訳です。その結果、次のような課題にぶつかってしまいます。

 

・ お客様ニーズの変化に素早い対応がしにくい
・ 売上や利益の不振に対し責任所在がたらい回しになり、効果的な手が打ちにくい
・ 部門間の対立構造が深刻化し、調整会議にやたらと時間がかかる
・ 情報がバラバラに管理されるようになり、プロセスが非効率になる

 

個別最適に陥ってしまう背景

個々の組織の部門長さんに会社全体のことを考えるハートがない訳ではないと思います。やっている暇がないのです。筆者である私も小さな組織の長ですが、まず自部署の事を考えざるを得ません。組織としての売上向上とコストやリスクの低減は当然のKPI ですが、余裕を持って達成できるなんてことは滅多にありません。結局は優先順位が「全体最適を考える」ことに巡ってこないのです。ではどうしたら良いか、組織をまたいで全体最適化を専門に考える事をミッションとする役割が必要になります。縦割り組織を上に辿ってゆくと、それができそうなのは社長になってしまいます。会社の規模が小さい頃は、まさに社長がその役割を担っています。しかし、大企業ともなるとさすがに現場から遠過ぎてそれも無理になります。

 

プロセスオーナーという役割

全体最適化が高度に進んでいる欧米の企業にはプロセスオーナー制度というものがあります。社長に成り代わり、企業の業務プロセスがどうあるべきか、ということを設計し、その運用状況に責任を持つ人のことを指します。プロセスオーナーには所属する部署に応じて二種類のタイプがあります。よく縦軸と横軸と呼ぶことがあります。縦軸とは事業をEnd to End で見ている組織、すなわち事業部です。一方の横軸とは事業を横断して共有のサービスを提供する組織、経理や調達や営業の支援部(バックオフィス)等を指します。縦軸の事業部、横軸の各機能組織のそれぞれに一人のプロセスオーナーを立てる、というのがプロセスオーナー制度です。

 縦軸のプロセスオーナーはお客様を起点とし、製品やサービスの企画、設計、製造、販売、物流、そしてお客様へ製品やサービスを届けて代金を回収するまでのEnd to End プロセスによる価値を如何に最大化するか、ということがミッションです。一方の横軸プロセスオーナーは各事業に提供するサービスをできるだけ標準化し、品質向上とコスト削減を狙います。両者は牽制関係になります。縦軸プロセスオーナーが自分のサプライチェーンをピカピカに最適化しようとすると横軸プロセスオーナーが標準化したサービスでは満足できないケースがあるからです。ですがその悩みはもともと規模の小さかった頃は社長がトレードオフを考えながらさばいてきたものと同じ悩みです。今、社長の代わりとなってその任につくプロセスオーナーは、その利害得失を調整することこそが仕事です。欧米では組織長になる前の幹部候補生達がプロセスオーナーをやります。幹部になるための登竜門という位置づけです。

 さて、利害得失を調整すると簡単に書きましたが、実際どこに課題があり、どうしなければならないのかを利害関係者間で共通認識を持ちながら議論するという事は意外と難題です。お互いにお互いの業務を知らないからです。そこで業務プロセスを可視化する、というニーズが自然に起こります。毎度空中戦をやっていては疲れてしまいますから。業務フローというのはIT システムの導入のためにベンダーが書くものだと思っている方も多いかもしれませんが、違います。その先にIT 開発があってもなくても業務プロセスの管理は必要である、というのがプロセスオーナー制を敷く企業の考え方です。昨今はM&A や事業の拡大・縮小等、事業環境の変化が激しく、業務プロセスのあるべき姿はどんどん変わってゆきます。今まで通りが通用しないからこそ、自分達の業務プロセスを常に把握し、改善し、統制をかけることが競争力につながることを知っています。

 

日本におけるプロセスオーナーの実情

御社にはプロセスオーナーがいますか?とお聞きすると、いないことがほとんどですが、いたとしても「はい、うちでは全ての課長がプロセスオーナーです。」というお答えが多いようです。それは内部統制の業務フローに嘘がないことを確認する役割ですね。前述のプロセスオーナーの役割とは大きく異なります。成熟度の高い企業では本来の意味でプロセスオーナーを置いている所も少しずつ増えてきましたが、日本ではどうしても「オーナー」という言葉につられて、偉い人がアサインされがちなようです。執行役員や事業本部長がプロセスオーナーだと言っても、実効性のある改善活動には繋がりにくいと思います。結局はその方の部下が代行することになります。予算も権限もないプロセスオーナー代行者では、やはりうまく行かないことが多いようです。最後に改めて、プロセスオーナーの役割をまとめてみます。

 

・ プロセスオーナーの役割(縦軸/事業軸)

・ 事業オーナーからの予算付与と権限移譲の元で
・ End to Endプロセスを所有し改善する
・ 顧客満足度やTime to market等のKPIを定め、目標の達成に責任を持つ
・ 横軸プロセスオーナーに対する要求を定義する

 

・ プロセスオーナーの役割(横軸/機能軸)

・ 機能軸組織の長からの予算付与と権限移譲の元で
・ 機能軸組織が提供するサービスとその提供プロセスを所有し改善する
・ コストやリスク観点のKPIを定め、目標の達成に責任を持つ
・ 縦軸プロセスオーナーからの要求に対しSLAを定めサービス提供する

 

 

執筆者情報:

冨樫 勝彦 (Togashi, Yoshihiko)

1972年生まれ 株式会社ユニリタ クラウドサービス事業本部 ビジネスイノベーション部 部長。Ranabaseプロダクトオーナー。大学卒業後ERP導入に従事、2000年にBPM(ビジネスプロセスマネジメント)のコンサルティングに転向し、国内へのBPM普及展開を推進。2019年からBPMツールの自社開発に着手、"BPMで日本を元気に!" をモットーとして、コンサルに頼らず組織が自ら継続的に業務プロセスを改善してゆくための方法論やノウハウをRanabaseのサービスに込め、BPM市場の裾野を広げる活動を続けています。

 

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