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お客様を起点とする業務変革

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お客様を起点とする業務変革

攻めのBPM

BPM(ビジネスプロセス・マネジメント)というと守りのイメージ、業務やシステムを標準化してコスト削減や統制強化を狙うものだとお考えになる方が多いと思います。確かに昔のBPM事例のほとんどはERP導入を絡めた「標準化」がテーマでした。しかし、最近のガートナー社のリサーチによると、2011年頃から海外でのBPMの狙いは” Operationally resilient”(直訳すると業務の弾力性を高めること)、つまり、「日々変化するグローバルマーケットに対応し、移りゆくお客様ニーズに素早くマッチするような業務プロセスを手にすること」にシフトしてきていると言われています。

 

今回はBPM手法をビジネスの最前線である顧客接点に適用し、コスト削減ではなく売上向上を狙う、いわば「攻めのBPM」のアプローチをご紹介したいと思います。

 

顧客経験価値とは

CX(Customer Experience)という用語がIT業界を賑わせていますね。日本語では顧客経験価値と訳されています。みなさんもプライベートでは一個人消費者ですから、必ず経験されていると思います。買い物をする時の体験を例に挙げると、時に感動し、時にガッカリすることは、ごく一般的な経験です。この経験がよろしければ価値を認め、悪ければその会社とは2度と付き合うまいと思う、これが顧客経験価値です。

 

お客様がネットから物を購入する際の代表的な経験を絵にすると、図1のようなサイクルになります。企業の立場から注意が必要なのは、従来、自社の理論でビジネスの始点・終点だと思っていた範囲(図中では赤線の範囲)よりも、お客様視点のプロセス(図中では青線の範囲)はずっと長いという事です。また、お客様にとって赤線の範囲はイライラさせる事務手続であり待ち時間です。このリードタイムをできるだけ短く、手間はできるだけかけさせないようにすることは大原則ですが、この範囲内だけでお客様に特別な経験価値を提供できる余地は少ないということがわかります。お客様が付加価値を感じるのは主として、それ以外の範囲、つまり、注文をする前までの経験と、物やサービスを手にした後の経験です。

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(図1:顧客経験価値のサイクル)

 

Outside-Inアプローチ

お客様の経験の始点から終点までを対象とし、「お客様はどんな経験に価値を認めているのか?」・「その傾向に変化はないか?」 という分析に始まり、まずは顧客接点のサービス(内容、質、量、スピード等)を変える。それに伴ってお客様に直接向かい合っている部門のプロセスを変える。さらにはそのためにその部門が他部門に要求するサービスを変えさせる。こうして企業全体に変化を連鎖させ、企業全体が顧客志向でプロセスを変化させることをOutside-Inアプローチと呼びます。これに対して従来のプロセス設計はInside-Outでした。それぞれの部門の理論で業務を組み立てるので、全体最適のためには部門間の調整が必要になります。企画、設計、調達、製造、営業など、主要なバリューチェーンを構成する組織は、元来それぞれにミッション、優先すべきKPIが異なりますので、利害が相反することは当たり前です。この状態をどのような順序で優先度付けして全体最適を目指すかという問いに対して、Outside-Inアプローチはとてもシンプルな解を示してくれます。

 

お客様を起点とし、そこに直接向かい合う部門が1番、この部門に対して物やサービスを提供する部門がその次。企業グループ内においては、自部署によるサービスの提供先にあたる組織がお客様である、という認識に立ち、エンドユーザに対する場合と同様に顧客経験価値を高めるのです。そんな事を真面目にやったら、他部署の言うことに振り回されてコストばかりかかってしまう、とお考えになるかもしれません。しかし、それぞれの部署も1つの企業体と捉え、部署間でSLA(サービスレベル契約)を交わし、全体を徹底して顧客志向に向かわせている企業は実際に存在します。もし、これまで付き合ってきた社内の組織よりも高いレベルでSLAを約束してくれる業者が現れたら、そのサービスは外から買うという選択肢もある訳です。もちろん、企業のアイデンティティとして守るべき所もありますが、お客様に近いところから順番に、顧客志向を社内に徹底していけば、自然と全体最適になるというのは、わかりすい話ではないでしょうか?

 

企業内に変更要求が連鎖していくイメージ

(図2:顧客接点を起点とするプロセス変更要求の連鎖)

 

プロセスをモデル化し維持管理していくことの意義

CXの潮流にBPMを持ち込もうとする理由は2つあります。1つは可視化の効能、もう1つは継続的改善の必要性です。前述のとおり、Outside-Inアプローチで変更要求を連鎖させて企業の全体最適を達成するには、会社・部署跨ぎで多くの利害関係者と理解しあう必要があります。BPMは古くから企業内プロセスをモデル化し、互いの整合性や関係性を見えるようにして、変更の是非を議論するための技法やノウハウを提供してきました。

 

お客様が感じる価値は日々変化し続けます。同じ価値を提供していても、より安価に、スピーディにそれを提供できる他社が現れればお客様が感じる価値は下がっていきます。既存の顧客層に寄り添うばかりでなく、その顧客層に新たな価値を提案したり、新たな顧客層を開拓したりするという方向に舵を切れば、顧客経験価値の分析はやり直しになります。Outside-Inのアプローチに終わりはないのです。

 

他社よりも速く環境変化に気付き自らを変化させるためには、顧客接点を起点とするプロセスが可視化され、継続的に改善され続けているという事が、大きなアドバンテージになります。

(図3:変化し続けるための改善プロセス)

 

ITサービスマネジメントに学ぶ

ところで、顧客経験価値の変化自体はどうやって検知したらよいのでしょうか。この課題にはBPM以外の知見を応用する必要がありそうです。そのためにITSM (ITサービスマネジメント)の考え方を応用してみてはどうか、と考えています。

 

ITサービス運用の世界では、お客様(ITサービスの利用者)からのお問い合わせやご要望があった時、これをまずはインシデント管理ツールに記録することが当たり前です。これは課題や対策を共有し、類似した問い合わせに対して2度目以降はよりスピーディな回答や実績に裏打ちされた対応策を提供し、中期的にはその問い合わせの発生自体を予防することが狙いです。

 

お客様とサービス提供者という関係性は変わらないのですが、ビジネスサイドでは、お客様の声を記録し分析しようとする取り組みが当たり前と言えるほどには浸透していないようです。さらに、企業内の部署間でのやり取りにおいて、お客様(関連部署)の声を改善に活かせているケースは少ないかもしれません。

 

 

執筆者情報:

冨樫 勝彦 (Togashi, Yoshihiko)

1972年生まれ 株式会社ユニリタ クラウドサービス事業本部 ビジネスイノベーション部 部長。Ranabaseプロダクトオーナー。大学卒業後ERP導入に従事、2000年にBPM(ビジネスプロセスマネジメント)のコンサルティングに転向し、国内へのBPM普及展開を推進。2019年からBPMツールの自社開発に着手、"BPMで日本を元気に!" をモットーとして、コンサルに頼らず組織が自ら継続的に業務プロセスを改善してゆくための方法論やノウハウをRanabaseのサービスに込め、BPM市場の裾野を広げる活動を続けています。

 

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