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「良いKPI」を設計・運用する15のステップ

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「良いKPI」を設計・運用する15のステップ

前回の記事では、「良いKPI」の条件をざっと列挙してみました。引き続いて、今回は、どうやったら「良いKPI」を設計・運用できるのか、その手順を考えてみようと思います。

手順を考えるということは、「何を先にやった方が良いか」を明確にするということでもあります。「この検討を後回しにしたために、大きな後戻りが生じた」という痛い経験も踏まえた「設計の順番」の一般形、いわば「KPI設計・運用のレシピ」について、以下、紹介させて頂きます。

良いKPIを設計・運用するためのレシピ

「良いKPI」を設計・運用するには、どうすれば良いでしょう。常に「良いKPI」の条件を全て漏れなく意識して検討すれば良い、とも言えますが、「この検討段階では、このポイントを集中的に検討する」というように整理できれば効率的で、検討漏れをなくしたり、後戻りを最小限にできます。KPI設計の順番(プロセス)にも、セオリーがあるのです。その順番(プロセス)を、15ステップでまとめてみました(表2 良いKPIを設計・運用する15ステップ)。

「良いKPIを設計・運用する15ステップ」には、CSFという用語が出てくるので、その定義を振り返っておきます。

・CSF(Critical Success Factors 重要成功要因)…KGIを達成するために大きな影響を及ぼす重要な管理項目。

ポイントは、戦略目標・KGIを明確に定め、これを具体的なCSFに分解していき、CSFに直接影響する対象プロセスを特定した上で、KPIを定める、という手順です。定量的なKGIとKPIを繋ぐために、定性的なCSFが挟まっている、という構図になっています。

 

良いKPIを設計・運用する15ステップ

(表2 良いKPIを設計・運用する15ステップ)

# ステップ ステップを踏む効能
1 戦略目標の確認 経営・事業と整合したKPIを設計できる
2 CSF(Lv1)確認 重要な成功要因を支えるKPIを設計できる
3 組織ミッション確認 KPI改善に向けた主体や関係者が明確になる
4 重点ビジネス選択 KPIを測定・分析すべき重点領域を絞れる
5 CSF(Lv2)-組織別分解 KPI改善に責任を持つ実行組織を特定できる
6 CSF(Lv3)-組織別分解 KPIに関わる業務を漏れなく洗い出せる
7
対象プロセス選定 KPIの定義や改善点が具体的に示せる
8 KPI選定 CSFを最も良く表わすKPIを設計できる
9 目標値設定 期限・目標を明確にし、活動を推進できる
10 KPIの承認 適切なリソースを確保でき、活動が形骸化しない
11 測定運用設計 効率的に正確なデータを収集できる
12 分析運用設計 無理なく分析を継続できる
13 測定・分析の実施 事実情報を得られる
14 課題抽出と優先度決定 効率的・効果的な改善策を選択できる
15 対策の検討と実行 標準業務プロセスが改善される

 

1. 戦略目標の確認

先ず第一に、組織の戦略目標を確認しておきましょう。ここを疎かにすると、そこから先のKPI検討が全て無駄になってしまう可能性もあります。戦略目標は、企業内の組織構造や業務プロセスに依存しない、企業としての社会へのコミットです。組織ミッションや業務プロセスに不備があれば、戦略目標を達成できるように組織や業務の方を修正すべきであり、その逆ではありません。

 

2. CSF(Lv1)確認

戦略目標を実現するための、最上位のCSF(重要成功要因)を確認しておきましょう。CSF(Lv1)は、戦略目標の達成に欠かせない重要な要因が何であるのかを、最もハイレベルに明確かつ簡潔に表したものです。内容は、業態や企業の置かれた状況によって異なりますが、例えば「新規成約の拡大」「新商品の売上拡大」「間接費削減」「顧客対応スピード向上」「内部監査の徹底」といったものになります。もしかすると「こんな当たり前のことを、わざわざ確認する必要があるの?」と思われるかも知れませんが、CSFは「組織やプロジェクトが何を重要と見なしているか」を、言葉で具体的に表したものであり、それ以外にも無数にあるはずの成功要因よりも、敢えてその言葉で表された内容を重要視している、という強いメッセージです。CSFは、これ以降の検討や管理で課題や葛藤が生じた際の、指針・拠り所になるものですから、しっかり明文化し、関係者で合意しておきましょう。

 

3. 組織ミッション確認

CSFを担っている組織と、そのミッションの整合性を確認しましょう。CSFを担っている組織がない、もしくは、とりあえずヴァーチャル組織やタスクフォースに責任を持たせている、という場合は要注意です。この後のKPI設計を進めても、KPIの改善責任を持つ人が誰もいない、KPIが継続的に改善されない、ということになりかねません。

 

4. 重点ビジネス選択

本当に時間とコストをかけてKPIを測定・分析すべき領域はどこかを明確にしておきましょう。KPIの測定・分析・改善には、多くの時間とコストがかかります。特にデータ収集の自動化が進んでいない場合には、全てのビジネス領域で網羅的にKPIを設定することが測定・管理コストに見合うのか、確認しておきましょう。ビジネス状況は刻々と変化するので、「どのように領域を絞ったか」という検討経緯や判断基準も記録に残し、必要に応じてこのステップをスピーディーに見直せるよう備えておきましょう。

 

5. CSF(Lv2)-組織別分解

組織ミッションや重点ビジネス領域をふまえて、企業としてのCSF(Lv1)を実組織が担うCSF(Lv2)に分解しましょう。CSF(Lv2)が全て満たされれば、CSF(Lv1)が満たされることを確認しましょう。そうなっていないなら、組織構造や組織ミッションに漏れがあるのかも知れません。例えば、CSF(Lv1)がコスト削減であれば、どの実組織が何のコストについての削減責任を持つのかをCSF(Lv2)で明確にします。

 

6. CSF(Lv3)-業務別分解

CSF(Lv2)を、組織を構成する具体的な業務にまで分解しましょう。例えば、部や課の単位で、CSF(Lv3)を具体的に割り当てます。部や課が努力によってそのCSF(Lv3)の達成に貢献できることを確認します。

 

7. 対象プロセス選定

割り当てられたCSF(Lv3)に関係する標準業務プロセスを全て特定します。対象プロセスが特定できないのにKPIを設定しても、具体的な測定方法や改善箇所が分からないので、機能しません。例えば、CSF(Lv3)として「債権回収の効率化」が割当たっていれば、営業部門の「契約プロセス」「請求プロセス」が対象として特定されるでしょう。

 

8. KPI選定

ここでようやく、KPIを選定します。CSF(Lv3)のパフォーマンスを最も良く表現できるシンプルな指標で、かつ、測定可能なものを選びます。APQC(American Productivity & Quality Center:米国生産性品質センター)が公開しているKPIを参考にしてみるのも良いでしょう。参考までにKPIの例を挙げておきます(表 3 KPIの例)。測定実績のある一般的なKPIを選択しておけば、ベンチマークなどもやり易くなります。

 

(表2 良いKPIを設計・運用する15ステップ)

カテゴリ KPI(例)
費用有効性 ・売上高$1000あたりの人件費・システム費・間接費・外注費
・失敗コスト÷総コスト
・処理コスト÷伝票数・伝票明細数
サイクルタイム ・製品開発期間、損益分岐までの期間
・問合せへの応答時間(定型・非定型)
・販売注文の受付から生産・物流までの通知時間
・調達から支払までのサイクルタイム
・人材育成(スキル不足解消までの時間)
・月次連結財務諸表完成サイクルタイム
プロセス効率性 ・納期遵守率 ・マスタデータ有効活用率、資産回転率、黒字顧客÷全顧客
・予測精度(的中率)、正確性(品質達成率)
・成果実現数÷費用、ROI達成PJ数÷全PJ数
・差戻件数÷全件数(欠陥率)、返品価額÷売上高
スタフ生産性 ・直接業務従業員数÷間接業務従業員数
・販売注文数÷販売注文管理工数
・有効ベンダー数÷調達プロセス工数
・スタフサービス顧客数÷スタフ部門工数
追加情報 ・チャネル毎・手段毎の件数÷全件数
・チャネル毎・手段毎の取扱高÷全取扱高
・有資格者数÷従業員数、経験3年以上従業員数÷従業員数
・返品・逆流プロセスの要因別発生率

 

いかがでしょう。15ステップのうち、KPIの選定は、実に8番目。手順の中では後半にあります。ここに至るまでに、しっかりと目標や標準業務プロセスとの結びつけを明確にしておくことが重要なのです。では、引き続き、このKPIがきちんと運用できるよう、「魂」を込めて行きます。

 

9. 目標値設定

他社ベンチマーク、社内ベンチマークや、経営上のゴールに照らして、いつまでにどの程度の値を達成するべきかを決めます。この設定が曖昧だと、測りっぱなし、分析しっぱなしになります。

 

10. KPIの承認

誰も承認していないKPIは、改善活動につながりません。承認者は、「KPIの改善→CSF達成→経営目標/KGI達成」が一筆書きで繋がっているか、論理的に飛躍がないか、また、目標値が実現可能であるか、未達が見込まれる場合に対策があるか、などを再確認します。つまり、ここまでのステップがきちんと踏まれているかを確認するわけです。また、承認者は、この後のKPIの測定や分析に必要なリソースを確保する責任を負うべきです。

 

11. 測定運用設計

データ収集はなるべく自動化しましょう。人手に頼ってデータを収集する場合でも、現場での負荷が最小限になるように工夫しましょう。現場の業務担当者にデータ収集作業を依頼する場合は、KPI測定の目的や意義を含めてきちんと説明しましょう。その方が積極的な協力が得られ、結果的に精度の高いデータを集めることができます。腹落ちしていないデータ収集に付き合わされると、いい加減なデータしか入力してもらえなくなる、ということになりかねません。

 

12. 分析運用設計

問題や改善箇所が分かる適切なグラフ表現を選択しましょう。プロセスマイニング、多次元解析などによって、分析ノウハウも溜まっていきます。得られた洞察が属人化しないよう、組織として蓄積されていくよう、分析方法も文書化し、改版を続けましょう。

 

13. 測定・分析の実施

運用設計に従ってKPIの測定・分析を実行します。異常値が多過ぎてクレンジングできないとか、データが大量過ぎて分析が間に合わないなど、運用上の問題が生じたら、測定運用設計や分析運用設計に立ち返りましょう。

 

14. 課題抽出と優先度決定

分析の結果、課題が生じたら、CSFへの影響度も踏まえ、課題解決の優先順位を付けましょう。

 

15. 対策の検討と実行

優先的に解くべき課題に対して、真因分析・対策検討・プロセス改善・定着化を図ります。自組織だけでの改善・改革が困難な場合は、より広くプロセスを捉えて、全体最適を図ります。このような改善の手法としては、リーン・シックスシグマ(Lean Six-Sigma ISO-13053)などがあります。

 

さいごに

さて、ここまで、「良いKPIと悪いKPI」を確認し、「良いKPI」を効率的に設計・運用するには、どのようなレシピに従って考えて行けば良いのか、順番を追って紹介してきました。その際、KPIに対応する標準業務プロセスを明確にすることが重要であることにも触れました。次回は、KPIの改善を具体的に行えるよう「プロセスをきちんと描く」ことの大切さについて考えてみようと思います。

 

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執筆者情報:

𡈽方 雅之(ひじかた まさし)

株式会社カレントカラー 代表取締役社長/プロセスデザイナー
https://www.current-color.co.jp/index.html
1968年生まれ。1992年、東京大学電気電子工学科 卒業。 同年、日本電気株式会社(NEC)に入社。 大規模プロジェクトのシステムエンジニア、プロジェクトマネージャを経験後、グループ全体のSI基盤構築方法論の普及展開に携わる。2008年から全社基幹システム改革プロジェクトでのBPM(ビジネスプロセスマネジメント)方法論の設計と展開の責任者。 2010年、ドイツでの世界的大会「プロセス・ワールド」でアジア初の「ビジネスプロセスエクセレンス賞」 受賞。 2014年からは全社業務改革プロジェクトの中核として創立されたNECマネジメントパートナーに出向、リーンシックスシグマをはじめとする業務改革体系の企画・設計・展開の責任者。 2019年、株式会社カレントカラーを設立。21世紀職業財団 客員講師。

 

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